映画「小さな兵隊」
時代には、それぞれ“必読書”といったものがある。
映画も同じで、映像系クリエーターを志す者ならば必ず観ておかなければいけない(※)映画の一つが僕の時代で言うとゴダール作品だった。
(※)もちろん、そんなことはないのだが、自己を確立しようと焦る青春期には、そうしたある種教条主義的ともいえるプレッシャーがつきまといがちである。たとえば、当時のマルクス主義などがその典型だろう。
というわけで、「男性・女性」を(たぶん「小さな兵隊」を観たのと同じ)新宿のミニシアターで観たり、紀伊國屋ホールで「東風」を観たりした。普通だったら、あの有名な「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」を観るべきだろうが、当時はヴィデオもなければDVDもない、観たいと思ったときにそう都合良く映画館で上映していることなど、まずあり得ない時代であった。「中国女」も話題だったが、観る機会がなかった。
で、「男性・女性」は今までに見たことのない斬新な語り口に、かなり面白いと思ったが(ストーリーなどはすっかり忘れた)、「東風」は“斬新すぎて”、退屈の余りグースカ寝てしまった(そもそもストーリーなどない)。徹夜明けだったことを考慮しても、やっぱり耐え難いほど退屈な映画だった。
しかしながら、当時いかにも生硬な、前衛を気取りたい新鋭マンガ家としては、その退屈さも、斬新な試みゆえのものという至って好意的な評価をしていた。
それから40年が経って観たゴダール作品「小さな兵隊」はどうだったか?
その手法は意外と古びていないし、案外面白かった。この映画が、ゴダール作品の中では比較的分かりやすい上に、エンターテインメントしているせいかもしれない。淡々とした拷問シーンもクールだし、クラシック音楽のインテリ臭い使い方も、なかなか洒落ている。
これ見よがしに感情を盛り上げようとするハリウッドメジャーの映画ばかりを観ていると、それ以外の文法などあり得ないような錯覚をしてしまいそうになるが、映画の文法はそればかりではないという当然のことを再確認するのに、ゴダール作品は好き嫌いは別にして最適かもしれないと思った。
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